第21期竜王戦七番勝負第1局
今年は羽生善治さんが永世名人となり、名実共に「名人」の称号が用いられることとなった。肩書きで残すところは史上二度目の七冠保持と、永世七冠の称号と、タイトル戦100勝くらいなものでしょうか。本人はタイトルや称号よりも、どれだけ自分の将棋の中で新しい可能性を見出していくか、自分の納得のいく将棋を指せるかが、大切なのだろうけれど。
今回の竜王戦は読売新聞社の主催で、七大タイトルのうち、羽生さんが「永世」の称号を得ていない唯一の棋戦となる。対する相手が渡辺明竜王。1984年生まれでぼくの一歳下になる。若手を代表する棋士で、史上4人目の中学生でプロという経歴を持つ大物。竜王戦は現在4連覇中で今回5連覇を狙う。ちなみに「永世竜王」は竜王を通算7期か、5期連続で保持すること。羽生さんは通算6期なので、羽生名人渡辺竜王どちらが勝っても史上初の「永世竜王」の誕生となる。
今の将棋界の七大タイトルのうち、竜王戦以外は、「羽生世代」(主に1969年~1971年生まれの有力棋士たち)の棋士たちが独占している状況。いい若手が出てこないとどの業界も盛り上がらないのは同じで、若手のタイトル奪取を望む棋士も多いというが、現状では厳しいだろうと見られている。
羽生名人と渡辺竜王の対決は「永世竜王の称号・世代間争い」のほかにもう一つの意味が含まれている。
将棋とは後手が圧倒的に不利なスポーツである。一手の差で勝ちきるのがプロの勝負なので、その一手をまず先に指せる先手番は、全対局で勝率6割になるという。強い棋士は後手番でどれだけ勝率を高めるのかというのが非常に重要だ。後手番では、ちょっとでも変な手を指すとおかしくなってくるため、手の幅があまり広くないという。が、作戦や定跡の研究の結果、近年では後手番の自由度も上がっているといわれているそうだ。
ところが、渡辺竜王は「将棋世界2008年12月号」のインタビューでこのように語っている。
「僕は2手目△8四歩派なんで、そういう将棋を指さないんですよ。僕が2手目に△8四歩と付くのは半分意地です。ご存知のように、竜王を取ったときの僕の後手番作戦は△8五飛先方オンリーだったんだけど、いつまでもそれじゃいかんと思って考え直した。2手目△8四歩のストレート勝負で、どんな作戦でも受けて立とうと思った。そもそも僕には2手目△8四歩で悪くならないはずだって言う信念があるんですよ。だって△8四歩がダメだと矢倉、角換わり、相掛かりは先手よしで消滅なんです。長年指されてきたこれらの戦法が消滅することはないはずだから、ちゃんと指せば後手も戦えるはず、戦えないとおかしいという理屈ですね。僕は理屈っぽいんです。ところが、実際にやるとたびたび簡単に負けてしまう。それが自分が弱いだけなのか、研究不足によるものなのか、それともある程度は仕方がないことなのか、そこがわからなくて悩んでいる。」
森内俊之名人に、「40代のおっさんと戦っている気がした」と言わしめるほど20歳そこいらの渡辺竜王の将棋は渋さを持ち合わせている。佐藤康光棋王は後手△8四歩で勝ちたい渡辺竜王に「それは古い(笑)。いや、居飛車本格派なら誰もが通る道ですか」と漏らしている。渡辺竜王の、過去の戦法が間違っていなかったという意地をかけた将棋が、定跡よりも大局観で柔軟にまとめていく羽生名人の将棋とどのようにぶつかるのかが大変な見所になっていると思う。
そんな竜王戦の第1局は花の都パリで行われた。結果は後手番の羽生勝ち。
64手目の△6四角が絶妙手。穴熊に囲った先手渡辺竜王が、この一手でどう最善を尽くしても千日手による引き分けしか狙うことができないと、控え室では検討された。
「穴熊、穴熊、穴熊。
穴熊は渡辺の十八番で、『スキがあれば穴熊に囲うのが現代将棋です』と常々公言しているほど。穴熊は王手がかかりにくいため、終盤で彼我の玉の速度計算がしやすい。合理的な思考を重んじ、ロマンに溺れることが無い「現代将棋の申し子」がこの囲いを多用するのは、当然のことなのだろう」(大川慎太郎「将棋世界」より)
穴熊の勝率はアマ・プロを問わず一番高いと言われている。他の囲いに比べて玉の一手の遠さが、終盤では大きく有利になるのだ。しかし、羽生はその穴熊の有利さを、中盤で封じ込めた。しかも、羽生の玉は右玉と呼ばれ、働きは良いが堅さの無い形であった。
「駒得・竜・穴熊。これだけ先手に好条件が揃っているのに、まさか後手よしとは。玉の堅さを過信しすぎる現代将棋の悪習を見事にとがめています。パリの地で誕生した新感覚。右玉ルネッサンスだ。」(佐藤康光棋王)
素人ながら、将棋の記事も書いていこうかなーって思っています。よろしく。
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